2021年5月5日水曜日

【ダイアローグ】<TAG>通信映像版第4回「アートと地域、私たちとの距離/ゲスト亀田恵子氏」文字起こし、要約と所感(2016.11.15掲載)

1時間超の映像を見る時間を割くのが難しい方のために、<TAG>通信[映像版]の要約をお送りするシリーズの第4弾、今回は豊田のアートをテーマに亀田恵子氏に話を聞いた。
※映像アップより時間が経ってからの公開になってしまいましたが、どうぞ参考にしてください。すべてを要約できてはないので、よろしければどうぞ映像版をご覧ください。
<TAG>通信[映像版] → https://youtu.be/cCsosDOeHlI

肩書について
 冒頭、亀田氏の肩書の話になった。便宜上評論家と名乗っているが、少しおこがましい気持ちもしているとのこと。評論というと、歴史も含め作品を系統立てて解説するというイメージがあるが、自分は美術を専門的に学んできたわけでもないし、特に現在のアートは様々な表現があり、解説、解釈するということ自体に違和感がある。スタンスとしては、自分もいち鑑賞者、いち生活者として、感じたこと、作品や公演を目にした感情を言葉にすることで、言葉にすることが苦手な方に訴えられないかという思いで活動しているとのことだった。
 また、公演などのプロデュースも行っているが、評論とはちょっと関わっていくマインドが違っているように思っていて、パフォーマーの人は繊細な人が多いので、よりその人のよさをどのように引き出して、観客と繋げていくかという作業だと思っているとのこと。

アートとは?とよたデカス・プロジェクトでの活動を通して

 とよたデカスプロジェクトは、豊田市教育委員会(文化振興課)が主管する、市民提案のアートプロジェクトに補助金ではなく、賞金を出す事業で、今年(平成28年度)が3年目となる。亀田氏は、そこでモデル事業として「小渡・アートミルフィーユ」に昨年から携わっている。
 とよたデカスプロジェクトの特長は、それぞれの提案者がアートディレクション・プロダクション自体で生活費収入を得るのではなく、基本的には事業費はトントンになるくらいの予算組みで、正職を持ちながら、生活者として地域と連携しながら行う事業であるとのこと。

 筆者より上の世代は、アートというと美術館などに見に行くものという先入観があるが、90年代以降、アートプロジェクトと呼ばれる、展示施設を出て土地や場所とアートを融合させたり、制作過程自体を見せいていく、ワークショップ等の開催などの、自由度の高い活動が展開されてきている。これは、地域振興、まちづくりとも関連して、全国で増加してきていると思われる。トリエンナーレやビエンナーレという事業も認知度を得てきている。
 亀田氏は、確かに地域住民の人たちに「アートってなにか説明してほしい」とよく言われるが、アートとはこういうものだという正解があるわけではなく、それぞれの人が、子どもでも高齢者でも関係なく、自由にそれぞれ違ったメッセージを受け取ればいいものだと考えていると言う。日常の社会や関係性、いわば縦軸の関係性をとっぱらって、みんなを横並びにする機能がアートにはあると考える。そういった機能は、そのまま市民活動にあてはめることができ、様々に普及していっているのではないかと考察する。
 また、アートは日常を反転させる機能も持つと亀田氏は言う。小渡・アートミルフィーユで、朝顔を見てもらおうとなった時に「でもお客さんが来る時間には朝顔はもう咲いてないからどうしよう」とみんなで悩んだ。だが、発想を転換して、それならお客さんに朝来てもらって、小渡の朝を楽しんでもらったらどうかと提案したことがあったとのこと。このような反転、欠点と思われることを長所にしてしまう機能がアートにはある。

 そもそも、各地域にはつい数十年前前まで、神事などとも相まった農村舞台や芸能などが盛んにあって、それこそ非日常を作り出すお祭りそのものがアートだったとも言える。高度成長期のなかで、そのような土着的なお祭りがなくなっていき、非日常な時間/空間がなくなってしまった先でアートが非日常性を復活させているとも言えるのではないか。

 亀田氏が、小渡でデカスプロジェクトのモデル事業をやろうとした時に、パフォーマーや現地の人とともに地区を歩いて回った。その時に、古い廃車が草むらの中にあったり、その横を子供たちが歩いていたりと時間の多層性を感じた。また、集落に中に川があり、昼間は気づかなかったのに夜だと川のせせらぎが大きく聞こえるなど1日の中でも違う自然を感じ、これはまさにミルフィーユのようだというところから事業に名付けたという経緯があったと語る。

 小渡・アートミルフィーユでは、様々なことをしている。早朝にヨガをやったり、風景の中に人がいるだけでまた違う風景が立ち上がってくることから、まちのいろんな場所にパフォーマーがいて、みんなに回遊してもらうなども行った。1つ1つはバラバラのイベントに見えるかもしれないが、そこには背骨となる全体のコンセプト、ストーリーがあり、それを共有することはとても大切だとも語る。

 小渡の地域の人たちの中に入っていった時に、こちらからこんなことをやりたいと言うのではなく、いちから一緒に何をやろうかと考えることに重点を置いた。それも最初だけでなく、途中で何回も、これはどのような経緯でやっているのかなどのコンセプト共有を図っていったと言う。

 アートという視点で見ると、旧合併町村、旭や足助、小原などとても元気で、人材も豊富だと感じる。やっとその元気が旧豊田地区にも波及してきていて、効果が見られるのではないか。
 また、一方でまちなかには豊田市美術館があって、展示機能だけではない、アートを発信する役割を担いつつあるし、例えば文化振興財団が手掛ける農村舞台事業なども浸透してきており、様々なアートが市内で展開してきている印象がある。

 亀田氏は、何をやるのかとともに、なぜやるのかという視点を常に持つ必要性を語る。確かに、コーディネーターは常に言葉でコンセプトを説明して共有してもらう役割を担っている。しかし、同時にすべてをシステマティックにしてもだめで、そのまち特有のゆるやかな時間や人間関係に身をゆだねることも大切だとのこと。
 先に話題になった非日常の時間/空間を取り戻していくことともつながるが、現代的な集中・効率的な時間の使い方と、ゆったりとした時間の共存、バランスの感覚が重要だと語る。

アートのこれから、人材育成は場と機会を作ること
 これからを考えた時に、アートをどうしていくか?と大きく考えるのではなく、自分自身がどう生きたいか、時間をどう使いたいかを考えると、必然的にアートに触れることになるのではないかと亀田氏は語る。例えば、亀田氏は就職した時に寮生活で2人部屋だった。1人の時間が欲しくて美術館に通ったりして作品をゆっくり見たり感じる自由が生活の中でとても必要だったと振り返る。そのような、生活する上で何が必要かを考えた時に、アート、芸術が見えてくるのではないかとのこと。

 豊田市においては、デカスプロジェクトはじめ、あそべるとよたプロジェクトやまちさとミライ塾、その他さまざまなものが同時進行的に展開していて、すべてアートと言ってしまっていいと思う。そういう意味では豊田市のアートは花盛りと言えるのではないか。しかし、一方ではアートディレクター、コーディネーターが不足している、人材育成が必要だとも言われている。

 亀田氏は、デカスプロジェクトをやる時に人材育成をやって欲しいとも言われて、企画者を育てる場としてシデカス隊を作った経緯もある。
 石黒氏は、でも人材育成だけに目がいってしまうことも危険で、場所と機会があれば、自然と人は育つのではないか、人材育成という題目だけ唱えると、例えば人材育成講座をやればいいという発想になりかねないのではと言う。ただノウハウだけがあっても人は動かないのではないか。やはり人間関係の中で、じゃあ参加しよう、という動機づけもあるだろうし、そのような繋がりを作っていくことが人材の育成につながるのではないか。

 最後に亀田氏個人の来年再来年の活動の展望を聞いた。デカスプロジェクトのモデル事業は3年やろうと言っているので、来年が3年目になる。また、長年続けている公演プロデュースも来年10年になるので、そこでまた新たな10年を考えていきたいと思っているとのこと。また、Arts&Theater→Literacyでのレポート、レビューも引き続き発信していきたいとのことだった。

最後に
 アートというと、狭義的な美術ということだけでなく、芸術全体を包括するものでもあるので、「アートとは?」と話し出すとどうしても漠然とした話になりやすい。
 ただ、漠然としていていいのではないか、それほど自由なものなのだ、とも思う。アートとは何かと答えを求めるとどんどんアートから遠ざかってしまうというジレンマに陥りやすい。
 豊田市という位相で考えると、高度成長の中で失われてきたお祭り/祝祭から戦後の一点集客のためのイベントへの移行が一区切りして、アートという視点/切り口で再び非日常性/祝祭を復活させる試みが今展開しているように思う。
そういう意味では、都市部に比べて、歴史・時間の重なりが目に見えやすい田舎の方が、アートとの親和性が高いのかもしれない。アートの様々な可能性を感じることができた対談だった。


ゲスト:亀田恵子(かめだけいこ)
現代アート・舞台芸術評論家。豊田市在住。2007年、Arts&Theater→Literacyを設立、評論活動のほかにも、アーティストのPR支援、公演プロデュース、講師、ラジオパーソナリティなど様々な活動を行っている。とよた農村舞台アートプロジェクト実行委員、とよたデカスプロジェクトのモデル事業「小渡・アートミルフィーユ」主宰、シデカス隊隊長。
Arts&Theater→Literacyブログhttp://atl-since07.blog.so-net.ne.jp/
サイトhttp://keikoartliteracy.wixsite.com/by-office-k
小渡・アートミルフィーユサイトhttp://www.odoartmille-feuille.com/
とよたデカスプロジェクトサイトhttp://decasu.jp/

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