2021年5月11日火曜日

【ダイアローグ】<TAG>ダイアローグ 第34回「再開ごあいさつ コロナ禍での近況と<TAG>について」動画公開及び文字起こし(2021.5)

豊田とその周辺地域の、演劇・映像・音楽・アートに関する情報と人材のネットワーク<TAG>Toyota Art Geneサイト → http://toyotaartgene.com/

豊田で活躍する人材をお招きしてお話を伺う<TAG>ダイアローグ。2年ぶりの再開の今回は、ゲストは招かずに、発起人の2人が<TAG>について、<TAG>をお休みしていた2年間、特に昨年からのコロナ禍での近況や豊田の文化芸術界隈の状況を話しました。
<TAG>ダイアローグ動画 → https://youtu.be/L64cNBCBLQ8
<TAG>チャンネル登録もよろしくお願いします → https://www.youtube.com/channel/UCIjZssyxVzbc1yNkQSSW-Hg

1時間超の動画をご覧になるお時間がない方のために、文字起こしも掲載します。
※全編の文字起こしではありません、よろしければどうぞ動画をご覧ください。

再開ごあいさつ コロナ禍での近況と<TAG>について
(出演:石黒秀和 清水雅人 2021.4.27収録)
自己紹介、<TAG>紹介
清水:みなさんこんにちは。<TAG>としては久しぶりです。

石黒:そうですね、2年ぶりくらいでしょうか。

清水:一応自己紹介しておきますか?初めて見る人もいるかもしれませんので。サイトに詳しいプロフィールは掲載しますが。じゃあ石黒さんから。

石黒:石黒です、豊田では演劇を中心とした舞台の活動をしています、作演出が主です。

清水:映画、映像関係の活動を豊田で始めて、現在は豊田ご当地アイドルStar☆Tを通じて音楽に関するまちづくりも行っています。
 <TAG>のこれまでについては後半で詳しくお話しますけど、さらっと紹介すると、<TAG>は、豊田とその周辺地域の、演劇・映像・音楽・アートに関する情報と人材のネットワークというもので、2013年から2019年2月まで活動していましたが、その後とよたアートプログラムという豊田市が主管する事業に引き継いで、豊田の文化芸術情報の発信を行って、この度2年でまた<TAG>としてリスタートすることになりました。
 2019年以前の<TAG>でもこの2人がホストになって、豊田で活躍する人材をゲストに招いてお話を聞く動画をアップしてきまして、特にこのコーナーを続けたいという気持ちもあって、<TAG>を再開することにしました。
 今月は再開初回ということで、ゲストは呼ばすに、この2人で<TAG>の説明、趣旨などをお話しできればと思います。サイトもリニューアルして、心機一転で再開のつもりです。

本題に入る前に、近況、コロナ禍での豊田での活動について
清水:ということで、<TAG>についてお話しするんですが、その前に、<TAG>をやっていなかったここ2年、特に昨年からのあまりにも激動な展開について話をしなければと思うんですが、、、。石黒さんとお会いするのも結構久しぶりですもんね?

石黒:リモートの会議では一緒になってますが、直接会うのは1年ぶりくらい?

清水:昨年秋ごろにとよたアートプログラムについての打ち合わせはリモートじゃなかったので、それでも半年ぶりくらいでしょうか。なんだかんだ言ってそれまでは<TAG>があったり、とよた市民アートプロジェクトの会議があったりで会う機会は多かったですからね。

石黒:コロナ禍で、夜はめっきり外に出なくなりました。

清水:イベント等で偶然会うというのもなくなりましたから。リモート会議だと会議の内容は話しますが、その前後に話をすることがないので、会議は早く終わっていいんですが、近況を聞くことがない。

石黒:いわゆる無駄話ね。

清水:なので、とりあえず近況を聞きたいと。どうですか、最近は?(笑)

石黒:
去年は、結構忙しくて、4~5月の緊急事態宣言が解除されて、何かやらなくては、という思いに駆られて、8月10月そして本公演として12月に舞台公演を行ったので、結果的にはここ何年かでは一番忙しい1年でした(笑)。
※「とよた劇場元気プロジェクト」豊田市で活動している演劇人が、コロナ禍の中で上演可能な芝居作りの試みたプロジェクト。詳しくはhttps://note.com/toyota_engeki
 3公演はプロデュースだけでなく作演出もやりましたので、芝居をやった1年だったなぁと。でも12月以降今のところは、公演は行ってません。そうですね、そうは言ってもやっぱりコロナに翻弄された1年だったなあ、コロナで始まり、コロナで、、、まだ終わってないんですが、そんな1年でしたね。

清水:第3派が落ち着いて、もうしばらくはいいだろうと思っていたら第4派ですからね、、、。

石黒:色々考えさせれられましたね、公演は今までとは違うやり方に挑戦して、それが正しいのか正しくないのかも分からずにやったんですが、、、。

清水:具体的に言うと、8月と11月が竹生通りにあるkabo.での公演で、、、

石黒:8月は役者2人お客さん2人という、密集できないことを逆手に取った形で、11月は4人ずつに増やして、12月は市民文化会館で、役者は8人くらいで、お客さんは90人限度くらいにして行いました。なんとかやれたんですが、終わった後も、色々考えることはありましたね。

清水:豊田の演劇界で言うと、とよた演劇アカデミー出身の劇団がいくつかありますが、それぞれの公演はできなかった?

石黒:まず、最初の緊急事態宣言で予定していた公演がすべて中止になったんですね、そこでまずガーンとモチベショーンが落ちた。それに、いわゆる音響や照明等のスタッフの影響も大きくて、この人たちは仕事としてやっているので生活がかかってますからね、会場、公共施設も一切舞台公演自体をやらなくなった。みんな“演劇の灯が消える”とか“文化の灯が消える”とか言いましたが、気持ち的にはまさにそういう気持ちでした。
 だからこそ何かをやろうと思って、緊急事態宣言明けの6月にはプロジェクトを立ち上げたんですが、その時点ではまだ演劇公演をやるなんて考えられない、名古屋の小劇場もそんな感じでした。確かに、そもそも稽古ができない、稽古ができなければ公演もできないという感じで、少なくとも年内は無理だなというのがその頃の雰囲気でしたから。
 でも、そんな中からいくつか豊田でも演劇公演があって、11月にはとよた演劇祭、2月には「あう つくる はじまる」これは豊田市文化振興財団文化事業課の事業ですが、演劇ファクトリーとこども創造劇場が中心となって開催されて。

清水:とよた演劇ファクトリーととよたこども創造劇場は、昨年はまるっとなかったんですか?

石黒:そうですね、例年の事業としてはなかった。今年は4月から募集が始まって、ちょうど募集が終わったところかな。
 そんな感じで、名古屋で公演を打つグループがいたりと少しずつ戻ってきてたんですが、またこの第4派で、、、振り出しに戻った感もありますね、、、。

清水:音楽ジャンルで言うと、橋の下世界音楽祭やトヨタロックフェスティバルは中止、トヨロックはコロナ以前に2020年は開催しないと決まっていたと思いますが、その他最近豊田ではライブの出来るお店が増えてきてますが、ほとんどライブはやれてない状況だったと思います。

石黒:清水さんのところはどうだったんですか?

清水:Star☆Tについて言えば、6月以降豊田スタジアムの広場で月1~2回程度ライブをやらせてもらって、秋以降は名古屋の比較的大きなライブハウスでのアイドルライブにも出演してという感じです。
 でも、例年発表している新作CDは作れませんでしたし、県外遠征もほぼできず、海外公演ももちろんできず、豊田市駅前のライブやフェスもできず、ネットでのグッズ販売等もやってなんとか現状維持、収益確保を最優先にした1年でした。

石黒:みんな色々工夫を凝らしてなんとかやっているんですよね。

清水:あそべるとよたプロジェクトなんかは、夏以降、第2派以降でしょうか、大分制限も緩和されて、市長も「恐がらずに対策を徹底した上でのイベント開催は進めて」と言われたという話も聞きますし、少しずつですが、豊田市駅周辺のスペースでのイベント開催は増えてきていると思います、またちょっと制限が出てきてますが、、、。
 映像に関しては、坂本さんのところ、とよたいかんぬ映画祭は11月にオンラインで開催してましたね。ただし、新作映画は制作できなくて、過去の作品などを上映してました。あとは、いわゆる本編、劇場公開作の撮影が11~12月に豊田でありまして、エキストラ派遣等でサポートしたんですが、石黒さんにも協力いただいて。

石黒:あれは、情報公開はされたんですか?

清水:ちょうどされたところで、タイトルが「僕と彼女とラリーと」、今年の10月1日から全国公開されます。
あと、アートに関しては、、、

石黒:とよたデカスプロジェクトが、非接触をテーマにして事業募集したら、今までで一番応募が多かったようですし、私たちも関わっているとよた市民アートプロジェクトの主催ですが、2~3月にとよたまちなか芸術祭がありました。実行委員会を作って、まちなかを使って面白い試みをやってくれたなと思います。
 そもそもとよた市民アートプロジェクトでも、いわゆるイベント開催中心ではなく、まちなかにアートがある、日常の中のアートという非日常を創り出すというコンセプトを言っていたので、まちなか芸術祭は原点に還ったとも言えると思います。

清水:面白い作品もありましたね。

石黒:そもそもアートの展示などは一気に人が集まるものではないので、こういう時には合っているのかもしれませんね。

清水:そんな感じで、なんとか継続してやっているところあり、1年休んでしまった、やめてしまったところもありという感じでしょうか。

コロナ禍で見えてきたもの
清水:それで、、、これは個人的な実感というか、気づいてしまったことなんですが、今回のコロナ禍で、コロナはすべての人に平等ですから、国としての危機管理能力のテストになっているという指摘も言われていて、確かにそう思うんですが、それってどこを切っても同じで、例えば地方都市の文化芸術としてみても、我々のような活動を文化として見ているか、ただの遊びをやっていると見ているか、の本性というか、考えが見えてしまう、露呈してしまうということがいろんな場面であって。

石黒:それは大いにあるね~。

清水:それも、そういう本性って結構個人単位で違っていて、例えば、Star☆Tのライブ会場を探す過程で、公園とか広場、その他の施設などを使いたいって施設や行政機関に相談すると「いや無理ですよ」ってほぼ門前払いのところもあれば、「どうやったらやれるか一緒に考えましょう」って言ってくれるところもあって、同じ基準のはずなのにものすごく違いがある。
 それって、平時だったら、地域振興、文化振興、まちづくりの活動は必要ですねって同じ対応なんだけど、こういう時になると「ここまで積み上げてきたStar☆Tの活動は、文化だし豊田の財産だからなんとかつぶさないように」と考えられるか、「好きで遊びでやってることでしょ?わざわざこんな時にライブやる必要あるの?」って思うかってその人の本当の考えというか資質がばれてしまうんですよね。
 それは行政に限ったことではなくて、どこでもそういう本性がばれる場面がでてきている。組織内とか友達同士でも。

石黒:それって、どこでも、世界中で起きてることなんだろうね。今4月末の時点ですが、東京で緊急事態宣言が出たけど、寄席は開くって言ってニュースになってました。
※結局東京都等からの要請を受けて休業することになったもよう。
不要不急をどう取るのか、落語は不要不急ではない、生活に必要なものだっていう主張をどう受け取るか、まさに落語は文化だと捉えるか、ただの娯楽と捉えるか、この不要不急とはなんだというのを考えさせられる1年だった、いやまだ続いているなぁと。

清水:Star☆Tの活動でも、石黒さんが積み重ねてきた豊田での演劇の活動でも、こういう時期なんだから1年くらい休めばいいじゃんって思う人もいるかもしれませんが、1年休んだら多分元に戻るまでに3年とか5年かかります、あるいはもう元に戻らないかもしれない。こういうものって本当にもろくて、結構簡単になくなってしまうものなんです。10年20年かけて作ってきた実績がここにありますが、それが全く起きてこなかった歴史も想定できる、豊田にアイドルグループがいない今だってあり得るし、豊田に演劇をやるグループなんてなくて、やりたい人は名古屋に行ってる状況だってあり得たわけで、この言葉はあんまり過ぎじゃないけど、やっていることは1つのレガシーだという自負もあります。
 飲食店だって同じで、豊田のまちなかにこれだけたくさん飲食店が出来てるのも1つの文化だと思うんです、これをみんなでちゃんと守るか、別になくなってもいいと思うか。自動車を作ることに比べると見えにくいかもしれないけど、そういうのも文化だ、地域に必要なものだと思えるか。

石黒:でも、まだ正解がわからないというのもあって、例えば医療のことを言われると何とも言えない、医療従事者ががんばっているのに、、、まずは命を守らないと、、、と言われると、ある意味反論できない、もっともだという気持ち、ある種の弱さもある。僕自身もそこにまだ答えが見いだせてないというのが正直なところです。でもそれってとても大事なことで、そこにきちんと言葉が乗せられるように考えなくてはいけないと思います。

清水:もう1つは、この<TAG>のコンセプトにも通じるんですが、地域での情報発信についても改めて考えたというか、マスコミを中心にメディアで得る情報、コロナの状況とか、医療のひっ迫状況とかって全国ニュースと言いつつほとんど東京の情報なんですよね。もちろん国家の対応は重要なので全国ニュース必要ですが、じゃあ実際東海地区や愛知県の状況はどうかと言うと情報はかなり少ないですし、さらに言えば豊田の実際はどうなのか、豊田の医療状況はひっ迫してるのか大丈夫なのか、検査体制はどうなのかってほとんど情報がない。
 豊田市長が結構頻繁に動画を公開していてそれは評価していいと思いますが、まあでも市の発表ですからね、都合の悪いことは言わないでしょうから、いわゆる実際の状況を伝える情報はネットを探してもほとんどありません。そういう情報の非対称性を改めて感じるとともに、そのことが実はおかしいってそもそも思わない状況も変わってないなぁと。

石黒:私たちは戦後生まれですけど、あの戦時中の国民の動きを見てみると、なんであんな風になってしまったんだろうって思うけど、今まさに私たちは当事者だと思うんですよ。だから、何十年後かの人が、この時の状況を見てどう思うんだろうか、正しかったのか間違っていたのか、そういう歴史的な視点を持たないといけないって思っています。

清水:<TAG>2年ぶりの再開って冒頭で言いましたが、2年前ってなんだか隔世の感があるというか、、、。

石黒:私たち、いわゆる空想の世界、虚構の世界を書いて作ってきた人間なんですが、それが現実に起きてしまっているという変な感覚がありますね。

清水:これまでの<TAG>でたくさんの方に話を聞いてきた中で、2000年前後で時代の転換というのがあったんだという実感があって、まあこれは地域とか文化芸術に限ったことではなく、高度成長~バブル崩壊までで一区切りがあったということなんですが、今そこから20年で、またもう1つ大きな転換が起こっている最中という気がします。

石黒:演劇に限ったことではなく、豊田の市民活動って、コロナの前までにがぁーっと伸びてきたと思うし、いろんなおもしろい人材も出てきたと思うんです。豊田の文化高度成長みたいなものがあったと思うんですが、そこにコロナ禍が襲って急ブレーキがかかったようになっている感はある。何か試されているのかなという気がしますね。

清水:現在のコロナの状況はいずれは終息するとは思いますが、だからと言って元には戻らないし、戻ってもいけないと思うんです。

石黒:そうですね、新しい段階に進んでいかないといけない。でも確かにそういう感覚の違いは、個人単位かもしれませんね、行政でも会社でも。

清水:まちづくりが大事って言っても、本当に市民社会を作ることの必要性から言っている人と、お金儲けのために言っている人、よくわからないけどとりあえず言っている人が見えてしまった。まあ、そういう意味でも私たちが言いたいことを発信できる場としても<TAG>を再開させたいなとも思ったんです。

コロナを経たこれから
清水:コロナになって本当にテレビを見なくなってしまったんですが、、、。

石黒:
僕もそうです。

清水:特にニュースとか情報番組とかは見てられないというか。かろうじて新聞はまだとってますが。

石黒:うちも新聞だけはまだとってる。

清水:最初の緊急事態宣言が出た時に一番最初にやったのがクロームキャストを買ったことで、NETFLIXとかAMAZON PRIMEをリビングのテレビで見れるようにした。それでYouTubeとかも見れるので、ニュースとか解説なんかもネットで情報を得るようになったんですが、アルゴリズムのせいで、似たような論説のコンテンツばかり見るようになっていく。例えば政府に批判的な内容のものばかり見てその逆はほとんど見ない、一方でネトウヨ的なものを見ているとその逆は見ない。いわゆる「見たいものだけを見る」状況になっていく。ああこうやって分断って起るんだなぁ、陰謀論を信じる人が増えるのもしかたないのかもって思っちゃいました。

石黒:うちの息子もテレビは見ないんですが、そんな風だと偏るぞって言うんです。実際少し偏ってるなと思う時もあるんですが、テレビだって偏ってるじゃないかって言われると反論できないですね。

清水:そういう意味でも地域に立ち返らないとって思うんです、1人1人が世界の偏った情報を1人で浴びて分断されていくのではなくて。国を変えようって言っても徒労感、絶望感しかない、選挙に行っても何も変わらないようにしか思えないですけど、まだ地域でのコンセンサスを顔の見える範囲で作っていって地域を変えていくとかよくしていくことはできると思えるんじゃないかと。

石黒:確かに、グローバルとか市民社会とか言葉はよかったし、僕ら子どもの頃から理想だと思ってきましたけど、どうもちょっと違うんじゃないか。やっぱり地球単位で見た時に、いろんな文化とか生態系があって、それに合わせた暮らしとか、価値感があるんだなと。そこを1つのものに統一していこうではなく、それぞれを尊重するやり方をしていかないといけないというのが見えてきていると思います。

清水:どうですか、まわりのコロナの状況へのリアクションで、世代的な違いってありますか?若い世代はどんな感じですか?

石黒:世代的な違いはあんまりないかなぁ?ただ、これまで一生懸命活動してきた人がガクンって燃え尽き症候群みたいになっちゃったりとか、逆に引き続き頑張っている人もいるし、そこは個人個人かな。僕は、今ちょっとひと休みって思っている人を否定しないし、それもありだと思いますが、でもなんとなくこの状況も1年経てば、、、と思ってた人も多いと思うんです。でも1年経ってもまだ先が見えないとなると、本格的に辞めようって思う人がこれから増えてくるのかなという心配もあります。

本題 <TAG>とは
清水:ということでやっと今日の本題に(笑)、<TAG>とはという話をしたいと思います。

略 ※TUG~<TAG>の歴史については省略します。動画(33分30秒頃~)又はサイト http://toyotaartgene.com/aboutus.html をご確認ください。

清水:<TAG>を継承したとよたアートプログラムは、2019年度はどうしてもあいちトリエンナーレに振り回されたというか、かかりっきりになってしまって、2020年度でいろいろ検討したんですが、最終的には豊田のあらゆる文化情報を集約発信するのは難しいという結論になってしまって、TAPマガジンサイトは、より狭義なアート(美術)を中心とした情報サイトに落ち着いてしまった。それなら、また行政を離れて<TAG>を復活させようというのが、再開の大きな理由の1つです。

石黒:市はトリエンナーレのために市民アートプロジェクトを作ったわけではないと言うけれども、やっぱりトリエンナーレって大きかったと思うし、豊田と現代アートって、全国的にも有名な豊田市美術館があるんだけれど、なかなか市民には浸透していないという現実もあり、豊田にアーティストもいたけれども、市としては特に支援はしてこなかった中で、とよた市民アートプロジェクトが果たした役割は、一定の効果はあったと思っています。
 ただ、そこで見つけられた人材とかパワーをどう活かしていくかという点は、行政ではなかなか難しいのかなとも思う。やっぱり受け皿になる民間というか人材が必要なんだろうなと、まあ我々も含めてですが、行政に任せているだけではダメだろうなと。もう行政だ市民だと線引きする時代ではないけれど、行政には行政の理屈もあったりして、まだまだ時間はかかるかなとも思いますけどね。

清水:実際、プロジェクトやハイブリッドブンカサイなどを通じて知り合えたアーティストもたくさんいますし、我々のような演劇とか映像とか音楽の人材からのアプローチもとても重要だと思います。

石黒:コロナでちょっと見えにくくなってますが、市民アートプロジェクトに刺激されて参加した人もいるし、参加までしないけど何かやってるなって認識した人もいて、この1年2年で新たに活動を始めたって人もかなりいるんです。そういう人が何人いるってはっきり見えているわけではないですが、感覚的には増えてると思う。そういう意味では環境づくりはできたのではないかと思います。

<TAG>、地域メディア、情報発信
清水:情報発信については、<TAG>からとよたアートプログラムに継承する時にも繰り返し言ったんですが、東京とか名古屋の情報は届くのに、身近な地元の情報こそ届いてない現実、よく言う例えですが、演劇でいうと、下北沢でやっている公演情報は知ってるのに住んでる街豊田でやっている公演は知らない、という状況ってちょっとおかしくないか、メディアを通じて得る、全国という名の中央の情報と自分の街の情報の割合って実際9.8対0.2くらいだと思うんですが、せめて7対3くらいにならないか、各劇団とか団体がそれぞれ発信しているだけではどうしても弱いので、豊田の文化芸術で括って集約して発信するプラットフォームが作れないかって思いでやってきた。
 かつてあったぴあという雑誌の豊田版をネット上でやれないかっていうのが具体的なイメージだった。これって結構労力がいるので、<TAG>の頃でも中途半端だったことは否めなくて、行政ならやれるかもと思ったんですが、やっぱり難しかったというのが現在の状況です。
 ただ、今だから言うんですが、とよた市民アートプロジェクトの事務局でTAPマガジンも担当する安井さんと、昨年TAPマガジンの方向性について話す中で、安井さんはそもそもぴあの豊田版のようなものを作ること自体に必要性を感じてないんじゃないか、世代的には2世代くらい下で、自分が欲しい情報はSNSで各団体やアーティスト、情報発信サイトから得るので、別に集約するプラットフォームは特に必要ないと思ってるのかなぁと。
 それは安井さん個人の理由ではなくて、私たちが「ぴあの豊田版があったら便利だよね」っていうのが通じる世代が上がってきている、そういうのがあった方がいいと思うのが当たり前ではなくなってきているのかなと、そう思ってしまいました。

石黒:TAPマガジンは終わったわけではないので、アートの情報を中心に発信は続けていくんですが、安井さんが実際はどう考えているかはわからないけど、TAPマガジンに関しては、SNSを使いこなしている層、特に若い女性層に届けようという意図はあるんだろうと思います。そういう観点は今まではなかったと思うので、現在の洗練された形は継続してやっていって欲しいと思う。
 ただ、もうちょっと土臭いというか泥臭い情報を求めている人たちもいると思うので、その辺りは分けて考えていった方がいいのかなとも思いますね。

清水:あともう1つ<TAG>を始めた当時と再開する今とで認識が変わってきたことがあって、、、情報発信については、いろんな情報を集約して発信するフォーマットというかプラットフォームを作る必要があると思ってきて、その答えの1つが<TAG>だった。そういうプラットフォームができて、ある程度認知度が上がれば、情報が欲しいけど届いてない人に届くと思っていた。
 でも、去年秋に劇場公開映画のエキストラサポートをしたと言いましたが、エキストラ登録者の募集が、クランクインの10日くらい前からしかできなくて、タイトルや主演キャストもまだ言えない状況で、本当に集まるんだろうか心配で。今回は公式ラインとメールで募集して、告知はチラシも配る時間もないし、新聞等にも出せなくて、サイトとフェイスブックだけだったんですが、ふたを開けたらあっという間に700人くらい集まった。
 今回失敗したのは、登録時に在住地を聞かなかったので、豊田市民がどれくらいの割合かわからないんですが―結構エキストラマニアみたいな人がいて、県外からでもエキストラ出演に来るって人も結構いたんです―市外の人は半分とは言わないけど3分の1くらいはいると思うんですが、でも3分の2の500人くらいは豊田市民だと思う。500人と言う数字が興味のある人すべてに届いたと言える数なのかはわかりませんが、興味のあることなら、ラインとかフェイスブック等のSNSだけでもある程度情報を欲している人には届いてるんじゃないかと。
 で、そこで改めて気づくんですけど、多くの人が興味を持つこと、今回だと全国公開映画で有名人が出るらしい、エキストラで出れば有名人に会えるかもしれない、というわかりやすい情報は現状でも拡散する、それはプラットフォームの問題じゃないっていう事実に行きあたるわけです、まあ当たり前のことなんですけどね。でも、その興味を持つことが、昔と比べるとポピュリスティックになっているというか、みんなが興味のあることは私も興味がある、みんなが興味のないことは私も興味がないっていう現象が加速しているんじゃないかと。

石黒:それは豊田だけの現象じゃないよね、、、。

清水:そうですね、どこでも起こっていることでしょうね。だから、本当にいい公演とかライブがあっても、みんなが興味がないことは、本当にコアなファンは行くけど、多くの人には拡散しない。これって、フォーマットを作ることよりも、もっと難しい問題だと、、、。

石黒:それはやっかいだね、、、情報が届いてないから人が集まらないと思っていたけど、届いてるんだけど来ないとなると、、、考え方を変えないといけないのか、、、。

清水:だから、それこそ今のYouTuber的な思考になっていくというか、再生回数を増やすために、わかりやすくて、過激な内容にエスカレートしていく構図と同じなんですよね。派手ではないけどじっ時間をかけて表現をしているコンテンツをたくさんの人に見てもらうことがますます難しくなっているというか。最終的には、興味をもってくれる人を掘り起こす、育てる、そういう作業からやっていかなければならないというところに行きついてしまう。

石黒:まあ、演劇も映画も音楽も観て聴いてもらってなんぼですから、いかにお客さんを集めるかって考えないわけにはいかないんですが、以前だったらチラシを作って、たくさん撒いて、新聞やフリーペーパーで告知してもらってという数打ちゃあたる精神でやっていたんですが、、、。そういえば、仕事の方ですけど、今年からイベントごとのチラシは一切作らないってことにしたんです。

清水:非接触の時代でもありますしね。

石黒:僕なんかは、まだまだチラシに依存している世代なんですが、でもやってみようと。そうすると、代わりにSNSでどれくらい情報が伝わるのか?って思ってたんですが、今の話を聞くと、情報は届くんだけど、その伝え方というか、どう魅力的に伝えるかにかなり知恵を絞らないといけないんだなぁと。

清水:極端に言えば、何か食べ物でも記念品でも無料で配るって告知すれば、その情報は伝わって人もたくさん集まるんだと思います。でもそれでいいのか、そういう人は多分もらうものもらったら帰っちゃうだろうし。

石黒:
まあでもチラシだって、いかに興味を持ってもらえるようなチラシを作るか考えていたわけだし、同じだと言えれば同じなのかな、、、。

清水:というわけで、<TAG>も見る人が一気に増えることはないとは思いますが、中身は濃いはずなので、じわじわと興味を持つ人が増えていって欲しいと思ってます。そのために文字起こしもちゃんとして、コラムも継続して、このダイアローグもコロナが収まれば公開収録もやりたいなとも思ってますので、どうぞよろしくお願いします。

略 ※<TAG>サイト各コーナーの説明は省略します。詳しくはサイト http://toyotaartgene.com/aboutus.html をご確認ください。

石黒:あとは、特にアート・文化芸術だけにこだわらず、広くまちづくりに関わる人、例えば農業とか福祉とかいろんな分野の人の話も聞きたいって思っています。

清水:本当にそうですね、それこそ次回誰を呼ぼうかって考えるに、今一番興味があることって、豊田のコロナ、例えば医療の状況ってどうなの?ってことなんです。そういう情報って探してもないし、誰に聞いていいのかもわからない。まあ、地元だから情報が出てこないってこともあるんでしょうが、、、。

石黒:今デザイン思考とか、アート思考と言われますが、アートの世界にジャンルってもうなくて、どんな切り口でもそれはアートであると言えますし、だから、街を、生き方を楽しんでいる人であれば、どんどん来てもらって色々話を聞きたいですね。

2021年の抱負
清水:最後は、それぞれの今年度の計画というか、予定の話をできればと思います。

石黒:昨年3本芝居をやって、今年は特に予定はないんですけど、コロナ前からやっていた、演劇部という名前で、上演を目的としない芝居作りというのをやってて。芝居を楽しむ中で結果的に公演をやることになってもいい、でも最初から公演を目的として人を集めたり、劇団を作ってということはしない、稽古という過程を大事にして、結果的に公演があるかもしれないしないかもしれない、という活動を実験的にやってたんですが、それをまた再開して、少ない人数で動き始めているところです。公演がやれればいいかなとは思っていますが、時期は決めずに、1年でも2年でもかけてじっくり芝居を作るのもいいかなと思っています。

清水:豊田の演劇人材はどうですか?まだなかなかコロナの先が見えない状況ですが、、、。

石黒:でも、ありがたいことに、豊田市文化振興財団が、昨年度も演劇祭や「あう つくる はじめる」をやって、人材も関わってという状況があった。そこでいろんな知恵も蓄積されたと思うので、演劇ファクトリーやこども劇場、演劇祭などでその知恵を一段も二段も上げていってもらって、やっていって欲しいと思っています。この1年の知恵の蓄積って大きいし、活かしていかなければならないと思いますし、文化振興財団は文化を絶やさないということを肯定的に捉えて、やってきているなと思います。

清水:私は、本当は1年前から動き出そうと思っていた、劇場作りにいよいよ取り掛かりたいなと、音楽ライブだけでなくて演劇や映像上映もできるいわゆる劇場ですね、それを作りたいと。

石黒:それは本気?

清水:本気ですよ。

石黒:場所の候補はあるの?

清水:まだまだ全然です、探すところから。計画としては豊田のまちなかのつもりです。

石黒:劇場と言えばなんですが、名古屋の老舗の劇場だったナビロフトがなくなってしまって。コロナが直接の原因ではなくて、衛生的なことを保健所と相談する中で、実は劇場を作ってはいけない区域だったことが判明して閉鎖になったという。

清水:新聞で見ました。いわば名古屋演劇の聖地だったのに。

石黒:豊田の演劇人には一番近い名古屋の劇場だったし、実際公演を打つグループもありましたから、残念で。

清水:豊田にそういう場所を作りたいなと思ってます。お互い今年52歳の年ですしね、最前線でやれるのもあと10年かなと思ってるんで。

石黒:本当にそういうこと考えるようになりましたね~、体力的にもガクンときててね。

清水:今まで好きにやりたいことだけやってきたんで、最後は社会的に意味のあることもやらねばとも思ってます。それと映画も久しぶりに作りたいなと思ってる。年齢的なこともあってか、可笑しいけどちょっぴり泣けるホームドラマが作りたいって思ってて、この前田中邦衛さんが亡くなってテレビでやってた「北の国から 初恋」を初めて観たんですが、すごくよかった。倉本聰さんとか山田洋次監督みたいな映画が作りたいなって思ってるんです。

石黒:今年の抱負の話とか、先が見えてきたって話にも重なるんですが、やっぱり原点に戻ってきてて、脚本家になりたいって思った時の思いとか、あの頃作りたいって思ったものって、清水さんが言ったみたいな、あの頃テレビで観てた、笑ったり泣いたり感動したドラマのあの世界で、そういうものを作りたいと思ってこういう世界に入ったので、そこを目指したいなって僕も思うようになりました。

清水:その辺の進捗状況なども、随時ここでも報告したいと思いますので、スタッフになりたいとか興味のある方は言ってください。このダイアローグは月イチくらいでやっていきたいと思ってますので、また次回よろしくお願いします。ありがとうございました。

石黒:
ありがとうございました。

出演者プロフィール
石黒秀和(いしぐろひでかず)
 1989年に倉本聰氏の私塾・富良野塾にシナリオライター志望として入塾。卒塾後、カナダアルバータ州バンフに滞在し、帰国後、富良野塾の舞台スタッフやフリーのシナリオライターとして活動。1993年より9年間、豊田市民創作劇場の作・演出を担当する。
 2003年、2006年には国内最大級の野外劇「とよた市民野外劇」の作・演出を担当。その後、人材育成の必要性を実感し、舞台芸術人材育成事業「とよた演劇アカデミー」(現在はとよた演劇ファクトリー)を発案、実行委員として運営に携わり、2011年から2015年まで短編演劇バトルT-1を主催する。
 2012年からはTOCを主宰して市民公募のキャストによる群読劇を豊田市美術館などで上演。2017年からは、とよた市民アートプロジェクト推進協議会委員長として様々なアートプログラムの企画・運営に従事し、同年、とよた演劇協会を設立。会長に就任し、2020年、とよた劇場元気プロジェクトを実施する。
 その他、演劇ワークショップの講師や人形劇団への脚本提供・演出、ラジオドラマ、自主短編映画製作など活動の幅は多様。これまでの作・演出作品は70本以上。1997年からは公益財団法人あすてのスタッフとして社会貢献事業の推進にも従事。豊田市文化芸術振興委員ほか就任中。平成8年度豊田文化奨励賞受賞。平成12年とよしん育英財団助成。平成27年愛銀文化助成。日本劇作家協会会員。

清水雅人(しみずまさと)
 2000年頃より自主映画製作を始め、周辺の映画製作団体を統合してM.I.F(ミフ Mikawa Independet Movie Factory)を設立(2016年解散)。監督作「公務員探偵ホーリー2」「箱」などで国内の映画賞を多数受賞。また、全国の自主制作映画を上映する小坂本町一丁目映画祭を開催(2002~2015年に13回)。コミュニティFMにてラジオ番組パーソナリティ、CATVにて番組制作なども行う。
 2012年、サラリーマンを退職/独立し豊田星プロを起業。豊田ご当地アイドルStar☆T(すたーと)プロデユースをはじめ、映像制作、イベント企画などを行う。地元の音楽アーティストとの連携を深め、2017年より豊田市駅前GAZAビル南広場にて豊田市民音楽祭との共催による定期ライブToyota Citizen Music Park~豊田市民音楽広場~を開催。2018年2019年には夏フェス版として☆フェスを同会場にて開催、2,000人を動員。
 2016年、豊田では初の市内全域を舞台にした劇場公開作「星めぐりの町」(監督/黒土三男 主演/小林稔侍 2017年全国公開)を支援する団体 映画「星めぐりの町」を実現する会を設立し、制作、フィルムコミッションをサポート。2020年、団体名を「映画街人とよた」に改称し、2021年全国公開映画「僕と彼女とラリーと」支援ほか、豊田市における継続的な映画映像文化振興事業を行う。
 2017年より、とよた市民アートプロジェクト推進協議会委員就任し(2020年度終了)、あいちトリエンナーレ関連事業の支援やとよたアートプログラム支援を行う。


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