2021年5月11日火曜日

【コラム】「人生の極意」石黒秀和(2021.5)

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 昨年秋、突然左目に飛蚊症が現れた。病院に行くと加齢による硝子体剥離で、癒着した部分が網膜をひっぱっており、まれに網膜剥離に移行することがあるので定期的に検査していきましょうということになった。飛蚊症は治ることはなく、慣れるしかないようで、僕の人生から雲ひとつない真っ青な空、というものは消えてしまった。

 飛蚊症から約2週間後、今度はある朝起きたら世界が縦に回っていた。過去にもめまいは経験していたのだが、回転性のめまいは初めてで、なにより胃液すら出なくなるようなひどい嘔吐にたまらず近所の耳鼻科に駆け込み、波のように襲い来る吐き気に必死に耐えつつ幾つかの検査を終えると、医師は「まぁ、大丈夫でしょう。めまいはね、最終的には慣れるしかないから」みたいなことを言われあっさり帰されてしまった。家に帰って調べると、良性発作性頭位めまい症というよくあるめまい症だったようで、対処は、結局はやはり慣れるしかないようで・・・でも、果たしてこんなの慣れるのか? 当然慣れるわけはなく、今も毎朝、再びの発作に見舞われるのではないかとビクビクしながら目を覚ましている。

 新型コロナウィルスは、変異株の出現で新たなフェーズに入った模様。今までの三密対策では不充分という情報もある中、しかし全てを怖がり引きこもっていては、心身ともに疲弊するのは間違いないだろう。となると、対処は・・・やはり慣れ? あるいは慣れとは、過剰な不安から心身を守るための人類の知恵なのかもしれない。

 もちろん慣れてもらっちゃ困ることも世の中たくさんあるわけですが、でも、慣れるな、慣れるなと煽る世の中もやっぱりちょっとおかしいような気がする。空は多少余計なものが見えてもやはり空。めまいは、そもそも地球はいつも回ってる。コロナは、みんなで乗り越えましょう。

 適度に慣れつつ、しかし決して油断はしない。50歳を過ぎ、分かり始めた、人生の極意。


石黒秀和(いしぐろひでかず)プロフィール
1989年に倉本聰氏の私塾・富良野塾にシナリオライター志望として入塾。卒塾後、カナダアルバータ州バンフに滞在し、帰国後、富良野塾の舞台スタッフやフリーのシナリオライターとして活動。1993年より9年間、豊田市民創作劇場の作・演出を担当する。
2003年、2006年には国内最大級の野外劇「とよた市民野外劇」の作・演出を担当。その後、人材育成の必要性を実感し、舞台芸術人材育成事業「とよた演劇アカデミー」(現在はとよた演劇ファクトリー)を発案、実行委員として運営に携わり、2011年から2015年まで短編演劇バトルT-1を主催する。
2012年からはTOCを主宰して市民公募のキャストによる群読劇を豊田市美術館などで上演。2017年からは、とよた市民アートプロジェクト推進協議会委員長として様々なアートプログラムの企画・運営に従事し、同年、とよた演劇協会を設立。会長に就任し、2020年、とよた劇場元気プロジェクトを実施する。
その他、演劇ワークショップの講師や人形劇団への脚本提供・演出、ラジオドラマ、自主短編映画製作など活動の幅は多様。これまでの作・演出作品は70本以上。1997年からは公益財団法人あすてのスタッフとして社会貢献事業の推進にも従事。豊田市文化芸術振興委員ほか就任中。平成8年度豊田文化奨励賞受賞。平成12年とよしん育英財団助成。平成27年愛銀文化助成。日本劇作家協会会員。 


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