2021年8月27日金曜日

【コラム】「説明責任と信頼」清水雅人(2021.8)

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 コロナ禍になって、説明責任について考える場面が増えた。主に豊田ご当地アイドルStar☆T(すたーと)に関してだが、理由は簡単で、これまで当たり前にできていたことを変更する、中止する等が毎日のように起こるからだ。

 わかりやすい例を1つ。
8月中旬にStar☆Tのメンバーの1人が新型コロナウィルス感染症に感染した。当日はStar☆Tのライブ出演はなかったが、翌日は出演予定があり、また、判明した2日前にもライブ開催していた。保健所に確認したところ、感染したメンバーの発症2日前までに他メンバーの接触、ライブ出演はなく、メンバーや関係者、ライブ観覧者等は濃厚接触者には認定されないとのこと。
 ただ、発症3日前には他メンバーと接触しており、さらに5日6日7日前もライブや練習等で長い時間行動を共にしている。
 保健所にそのような事情を話し、心配なので他メンバーも検査が受けられないかと聞いたが、濃厚接触者でないと受けられないとのこと。
 そこで対応を検討する。変異株の感染力の高さは報道等でも聞いているし、若い世代での発症も増えていることも実感しているので、メンバーの連鎖感染やクラスターへの発展を危惧し、自費でのPCR検査を全メンバー実施することとし、結果が判明するまではライブ出演も取りやめることとした。
 ここでまずは翌日のライブ出演取りやめの発表をしなければならない。Star☆Tを目当てにライブ会場に来てくれる人もそれなりにいる。また、数日後にも、その週末にもライブ出演がある。
 なので、サイト及びSNSにて、
・メンバーの1人が新型コロナウィスル感染症に感染した(名前は非公表)
・他のメンバー、関係者は濃厚接触者には認定されない
・ただし、念のため他メンバー全員PCR検査を実施する
・検査結果が判明するまでのライブ出演は取りやめる
の4点を発表した。
 これまでも、Star☆Tについての方針や1つ1つの事業についても、意図や理由などその都度なるべく説明を尽くしてきたつもりだし、その方向性を踏襲すれば、ほぼすべてを隠さずに公表することが得策だと考えたからだ。
 いくつか「Star☆Tやばいんじゃないの?」「この前ライブ行ったけど俺大丈夫?」のようなツイートはあったようだが、直接の意見やクレームはなかったので、この判断と対応を理解いただいたと思っている。

 もちろん、このような発表ができたのは、これまで説明責任を果たしていた実績とファンのみなさんとの信頼関係があってこそだし、また今回のことで、信頼を壊さずに積み重ねられたと思っている。
 Star☆Tのファンの規模だからできることでしょ、という指摘もあるだろう。確かにStar☆Tの動向を気にしてくれているのは数百人程度だと思うので、規模としては小さい。だが、普段のイベント情報等のツイートでのリツイートは多くて20件程度なのが、この発表のリツイートは7件以上とずば抜けて多く(こういう負の情報はより拡散するんですよね)、いつもより多くの人が認識したことも確かだ。

 ちなみにメンバーで実施したPCR検査は全員感染リスク低で(1つ4,000円程度の検査キットを購入して私を含めて12人が実施 確定診断はできないのでリスク高/低の判定とのこと)、1週間後からライブ出演を再開した。

 この一連の事例をもっても、「説明責任を果たすことで信頼関係が築かれ、信頼関係があるから説明責任が果たせる」ということを改めて感じた。

 翻って、ここ最近の行政の対応の事例を2つ挙げる。
※わかりやすい事例として挙げるまでで、決して行政のみを批判する意図ではないことをあらかじめ言っておきます。
 Star☆Tは昨年4、5月の緊急事態宣言明けから豊田スタジアムの広場にてライブを行わせてもらっている。毎月1~2回開催、芝生の観覧スペースは、2m間隔に目印をつけて、それに沿って観覧してもらってきたが、今年6月に、市から、一般のスタジアム来場者とライブ観覧者を分けるよう観覧スペースを柵で囲うこと、観覧者の連絡先を把握することとの指導があった。
 ただ、今年6月からなぜそのようになったかの説明はされなかった(豊田スタジアム側も説明されてないとのこと)。
 先ほどのStar☆Tメンバーコロナ感染に関する保健所との電話でのやり取り。
「発症前1週間で何日もメンバーは接触しているので、PCR検査受けさえてもらえないか」
「濃厚接触者認定されないと検査は受けられない決まりです」
「それなら、自費でPCR検査しようと思うが、市販の検査キットは1万円以上するものから数千円のものまでたくさんある。値段が安いと精度も低いんだろうか」
「なんとも言えません」
「・・・」
ここには信頼を構築するとっかかりはほとんどない。

 「観覧スペースを柵で囲え」と言われて、「なんで今更そんなことしなければならないのか」なんて言うつもりは毛頭ない。必要なことなら、やった方がいいことならやるし、実際6月よりやっている。要は理由を説明して欲しいということで、それは、
「緊急事態宣言になったわけではないが、変異株が増えてきているという情報もあり、より徹底した対策が必要と判断したので」でもいいし、
「やっぱり柵で囲った方がいいんじゃないかと課内で相談してそうなった」でもいい。
コロナに関しては不確かな情報しかない中で判断しなければいけないことが多いこともわかっているし、根拠を示せなんてことも言わない。
「濃厚接触者でないと検査できないと決まっているから」だけでなく「検査範囲を広げる検討もしているところです」とか「県内一緒の対応となっていて、市独自の対策をすることのハードルはかなり高くて」でもいい。
「すみません、市販の検査キットのことは正直わからないんです、薬局等で聞いてみてもらえれば」でもいい。
例えばそのように言ってくれれば、その言葉はその職員さんが自分の言葉で話しているとわかるし、そこには信頼関係の入口が見えると思うのは私だけだろうか。

 そのような対応ができないのは、揚げ足をとって「市がこういうことを言った」と声を大きくするクレイマーがいるから、公平性の観点から個別の回答・個人の考えは話せない、等々が理由だと思うが(私も長年市役所にいてそういう対応をしてきた)、「そんなこと言ったって無理でしょ」で済ましていいのか、、、。合理性から言っても、本当にそれがスムーズな行政運営のためになっているのか、、、。

 もちろん、これは行政だけのことではない。個人同士でも、グループや団体でも、コミュニティでも、お店でも企業でも、「説明責任と信頼」が重要であることはみなさんもわかっていると思う。
 ここで言ったところで、すぐに総理大臣が説明責任を果たすようになる可能性はゼロに近いだろう。でも身近なところから始めて、「説明責任を果たすことで信頼関係が築かれ、信頼関係があるから説明責任が果たせる」という意識・コンセンサスを市単位くらいで作っていくこと、たとえネット上で炎上したって「私たちはわかってるよ」という気持ちを持つことはできるんじゃないかと思う。
 このコラムが、1ミリでもそのような意識・コンセンサス形成のきっかけになればと、本気で思っている。

過去のコラムはこちら → http://toyotaartgene.com/column.html

清水雅人(しみずまさと)プロフィール
2000年頃より自主映画製作を始め、周辺の映画製作団体を統合してM.I.F(ミフ Mikawa Independet Movie Factory)を設立(2016年解散)。監督作「公務員探偵ホーリー2」「箱」などで国内の映画賞を多数受賞。また、全国の自主制作映画を上映する小坂本町一丁目映画祭を開催(2002~2015年に13回)。コミュニティFMにてラジオ番組パーソナリティ、CATVにて番組制作なども行う。
2012年、サラリーマンを退職/独立し豊田星プロを起業。豊田ご当地アイドルStar☆T(すたーと)プロデユースをはじめ、映像制作、イベント企画などを行う。地元の音楽アーティストとの連携を深め、2017年より豊田市駅前GAZAビル南広場にて豊田市民音楽祭との共催による定期ライブを開催。2018年2019年には夏フェス版として☆フェスを同会場にて開催、2,000人を動員。
2016年、豊田では初の市内全域を舞台にした劇場公開作「星めぐりの町」(監督/黒土三男 主演/小林稔侍 2017年全国公開)を支援する団体 映画「星めぐりの町」を実現する会を設立し、制作、フィルムコミッションをサポート。2020年、団体名を「映画街人とよた」に改称し、2021年全国公開映画「僕と彼女とラリーと」支援ほか、豊田市における継続的な映画映像文化振興事業を行う。
2017年より、とよた市民アートプロジェクト推進協議会委員就任し(2020年度終了)、あいちトリエンナーレ関連事業の支援やとよたアートプログラム支援を行う。


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